私は子供の頃から睡眠不足だった

物心ついた時にはもう、睡眠障害が始まっていた。

 

なぜ覚えているのか。

それは、寝ないことで母親にこっぴどく怒られたから。

 

子供の起きていていい時間が終わり、布団に入る時間になる。

アニメの「一休さん」のエンディング (「母上さま」「一休」で終わるやつ)、次回予告を見ながら牛乳を飲まされる。

風鈴を逆さにしたような丸い形のコップだったから、牛乳の表面に映った影がなんだか一休さんの坊主頭みたいだなと思っていたのを今でも覚えている。

 

私と弟は子供部屋連れていかれ、絵本を一冊ずつ読んでもらうと電気をオレンジの薄明りにされて寝ることになった。

 

弟は絵本を読んでもらいながらうまいこと睡眠モードに切り替わっていたようで、いつも程なくして寝息を立てていた。

一方私は、日中あった出来事を思い出したり、薄明りの中で見えるもので得意の妄想劇を繰り広げていた。

 

箪笥の上には、大杯を抱えた黒田武士の博多人形と、藤娘の日本人形が、それぞれのケースに入ってポーズをとっている。

なんであんなに大きな茶碗を抱えているんだろうとか考えながら頭の中で人形たちが勝手に会話を始める。

黒田武士「姉さん(あねさん)、俺はもうすっかりのんじまった。姉さんは、いっぱいいかがかね?」

藤娘「ありがとうございます。でも、私は何も食べないし飲まないんです」(藤娘の口の結び方が私には一切の飲食を欲していないように見えた)

黒田武士「ああそうですか、でもせっかくだからどうですか」

すっかり自分で作った世界に入り込んでいると、頭蓋骨に激痛が走り我にかえる。

 

私は声に出してセリフを言っていたので、それも声を変えながら、納得がいく声色で言えるまで練習していたために、夜中だというのにまだ眠らずに起きていることが母親にばれたのだった。

 

子供がいつまでも寝ないと、親は腹がたつらしい。私が寝ないと、母はいつも拳で私の頭を殴るのだった。